生物学
私たちは、細胞接着分子カドヘリンによる神経回路形成機構や概日リズムの分子メカニズムなど、生物が生きていくうえで必須の様々な生命現象について研究しています。バクテリアやマウスなどのモデル生物を用いて研究を行い、ヒトの生命現象や病態の分子機構の解明を目指しています。
生命現象の基本メカニズムの解明と医療への応用を目指して
生物学教室では、細胞接着と生物時計という細胞の2つの基本的な現象を研究テーマとして、生命現象の分子機構の一端を明らかにしたいと考えています。細胞接着分子プロトカドヘリンは、神経回路形成やシナプス機能と密接に結びついており、いくつかは自閉症などの精神疾患の関連遺伝子であることが知られています。私たちはこの分子の解析を通じて、神経回路形成機構の解明や精神疾患の発症メカニズムや治療薬の開発などに結び付けていくことを目標にしています。また、生物時計は細菌からヒトまで生物に普遍的に存在する現象で、将来的にはヒトの概日リズムの仕組みの解明につなげていきたいと考えています。
現在の研究テーマ
細胞接着分子プロトカドヘリンによる神経回路形成とシナプス機能の制御機構の解明
細胞接着分子プロトカドヘリンは中枢神経系で特異的に発現する細胞接着分子で、神経回路形成やシナプスの可塑性などに関わっていると考えられています。我々はいくつかのプロトカドヘリンについてノックアウトマウスを作製し、その表現型の解析を通じて神経系での機能や精神疾患との関わりについて研究を進めています。自閉症の感受性遺伝子であるプロトカドヘリン9については、理化学研究所のグループと共同研究を行い、このマウスが新奇物体を避ける傾向にあるなど情動行動に異常があることを明らかにしてきました(平野ら 北米神経科学会2017)。
組織学的な解析では大きな形態的な異常が見られなかったことから、この分子がシナプスの可塑性などの神経機能を担っていることが推測されました。また、理化学研究所との共同研究により視機性眼球反応に異常があることも見出しています。現在、これらの異常の原因について、組織化学的な解析を進めています。プロトカドヘリン1についても、ノックアウトマウスの行動解析を理化学研究所と共同で研究し、このマウスの他個体への接触が上昇し、社会性行動に異常があることを見出しています。一方、別の自閉症関連遺伝子であるプロトカドヘリン10のノックアウトマウスの行動解析については、ペンシルベニア大学のグループと共同研究を進めています。これまでに、そのヘテロマウスでは雄特異的に社会性行動が低下していることを明らかにし、扁桃体ニューロンにおいてスパインの密度が上昇しているなど、扁桃体の神経回路の異常が原因であると推測されました。
生物時計の分子機構の解明
生物時計の1つである概日時計は、地球環境に適応するためにほとんどすべての生物が獲得しており、周期の安定性、外環境に対する同調機構、個体、組織、細胞などの多階層での制御・同調、出力機構、現象の生物種普遍性など、解くべき課題の多い重要な現象です。近年では、様々な疾患と概日時計の関係が明らかにされつつあり、医療の現場からも注目されています。そこで、リズム研究のモデル生物であるシアノバクテリアを材料として、概日時計の分子メカニズムの解明に向けて研究を行っています。特に、生体内の安定なリズム維持に重要であるとされる時計蛋白質の分解機構に興味を持って取り組んでいます。
研究業績