内科学第三
内科学第三講座は消化器肝臓内科単科で構成されており、上部消化管・下部消化管・肝臓・胆道・膵臓疾患全ての領域をカバーする最先端の医療を実施し、併せて教育と研究も行っています。大学病院の使命は最先端の医療を最新の研究成果に基づいて行う点にあり、サイエンスとしての医学とアートとしての医療技術をいかに統合していくかを常に意識して診療をしています。また当たり前のことではありますが、患者さんや他医療従事者に対する思いやりの気持ちを持って接することを大切にしています。昨今自分の診療科の臓器疾患以外は診療しない医師が増加しているように見受けられますが、我々は内科医として高い専門性を有したジェネラリストとして、さらには研究マインドを持った診療をめざしています。
上部消化管領域では、食道癌や胃癌のESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)については全国レベルでもハイヴォリュームセンターの1つとして、積極的に治療に取り組んでいます。最近では咽喉頭癌に対する耳鼻科との合同手術ELPS(endoscopic laryngo-pharyngeal surgery)や近年増加傾向である表在型十二指腸上皮性腫瘍に対しても腹腔鏡・内視鏡合同手術(D-LECS) やUnderwater EMR(UEMR)など、病変に応じた治療を行っています。また慢性肝炎や肝硬変を背景とした食道・胃静脈瘤に対する内視鏡治療(内視鏡的静脈瘤結紮療法(EVL)・内視鏡的静脈瘤硬化療法(EIS))を行っており、全国有数の実績があります。
大腸疾患では、最近増加の一途をたどっている潰瘍性大腸炎、クローン病の診療に力をいれており、2020年には難病センターに専門外来を設立しました。近隣施設からの紹介は増加傾向にあり、妊娠合併例や薬剤副作用例、治療難治例などの他施設では診療困難な症例にも取り組んでいます。
また大腸ポリープや早期大腸癌に対する粘膜切除術・粘膜下層剥離術、進行大腸癌における化学療法も多くの診療経験を有しています。小腸疾患では消化管出血やクローン病などに対してカプセル内視鏡検査バルーン内視鏡検査を行っており近隣から多くの患者さんを紹介いただいています。
胆膵疾患では高齢者に多い総胆管結石の治療では、従来の乳頭切開術に加えて乳頭バルーン拡張術を併用した結石截石術を行なっています。また膵癌の早期発見を目指した診療体系の構築や治療方針決定のためのEUS下の穿刺(EUS-FNA)で迅速な病理診断が可能となっています。さらには術後再建腸管を有する患者にバルーン内視鏡ERCP関連治療を多数例行うとともに、最近では胆管挿管困難例、悪性十二指腸閉塞などの症例に対してEUSを用いた胆道ドレナージを積極的に行っています。
肝細胞癌に関しては、造影エコーや、RVS(CT・MRI・超音波診断装置のボリュームデータから作成したMPR画像を リアルタイムで超音波画像と同期させる機能)を使用することで、今まで描出が難しく治療困難であった腫瘤もラジオ波などで治療ができるようになりました。また、最近、有効な分子標的薬も開発され、進行肝細胞癌に積極的に投与することで生存期間が延長しています。
また自己免疫肝炎・自己免疫性膵炎・原発性胆汁性胆管炎などの難治性肝膵疾患の診療にも精力的に取り組んでいます。さらには近年増加の一途をたどっている非アルコール性脂肪肝に対しても糖尿病内科・管理栄養士など他分野とも連携をとりながら食事指導や生活指導、肝細胞癌のスクリーニング検査などを行っています。
現在の研究テーマ
炎症性腸疾患に対する新規治療の開発と治療ポジショニングの構築、炎症性腸疾患に対する病態解明・バイオマーカーの開発、特殊光内視鏡を用いた消化管悪性腫瘍の診断、前がん状態における組織内細菌叢と分子異常との関連、十二指腸腺腫の発生メカニズム、日本人バレット食道患者の癌リスクに関わる分子異常、肝線維化、肝発癌あるいは自己免疫性肝疾患の機序解明、肝癌局所治療の開発自己免疫性膵炎の診断基準やガイドラインの作成、発症機序・IgG4産生のメカニズム
上部消化管疾患は特殊光内視鏡を用いた消化管悪性腫瘍・腺腫・食道静脈瘤の診断、癌、前がん状態における組織内細菌叢と分子異常との関連、十二指腸腺腫の発生メカニズム、日本人バレット食道患者の癌リスクに関わる分子異常、消化管洗浄廃液を用いた胃癌、食道癌のゲノム解析などの研究を行っています。内視鏡に関する研究では画像強調画像と遺伝子解析に基づいた食道癌診断やバレット食道診断における画像強調内視鏡検査の有用性に関する無作為比較試験などの研究を行っています。これらの成果については、多くの国内外の学会発表や論文公表を行っております。
下部消化管・小腸疾患については難病の研究に積極的に取り組み、厚生労働省難治性疾患克服事業研究班(難治性腸疾患調査研究班・ベーチェット班)やAMED難治性疾患実用化研究事業に主任研究者もしくは分担研究者として参加し、新しい診断や治療法の開発にかかわっています。特に治療面に関しては治療指針やガイドラインに関してプロジェクトリーダーとして作成にかかわっており、自施設だけでなく地域や本邦全体の診療向上を目指した取り組みを行っています。炎症性腸疾患治療ポジショニングを決定するための臨床・疫学的研究については2023-2024年に複数の成果を公表してきました。さらには腸炎発症における腸内細菌と自然免疫の関与、炎症性腸疾患における血小板機能異常に関する研究、コラーゲン特異的分子シャペロンHSP47を用いたクローン病腸管狭窄治療法の開発、消化管正常上皮幹細胞および消化管腫瘍幹細胞の同定におけるリン酸化Smadタンパクの関与に関する研究などを行っています。
肝疾患は肝線維化、肝発癌あるいは自己免疫性肝疾患の機序解明、肝癌局所治療の開発やリン酸化Smadタンパク抗体を用いた肝細胞癌、ウイルス性肝炎、自己免疫性肝疾患の活動性や治療効果予測などのバイオマーカーとしての有用性に関する研究を行っています。さらには近年増加傾向にある肝細胞癌に対する分子標的薬の有用性に関する研究も成果を公表しています。
胆道・膵臓疾患については、内視鏡的診断法、胆管閉塞の内視鏡ステント留置法、自己免疫性膵炎の診断基準やガイドラインの作成、発症機序・膵癌や膵炎発症や増悪、治療効果と腸内細菌叢との関連に関する研究、タブルバルーン内視鏡を用いた胆道疾患に関する多施設共同研究でおこなうとともに、IgG4産生のメカニズムについての基礎的・臨床的研究を行っています。
研究業績