小児科学
小児科学は、出生直後の新生児が心身ともに成人(およそ20歳)となるまでの期間を対象として診療研究を行う臨床医学分野です。昭和6年に開設された当講座は、90年以上の歴史を有しています。その間、数多くの優秀な小児科医を輩出してきました。また学閥がないため、他大学の卒業生も多数入局し、臨床と研究に日々研鑽を積んでいます。
当講座の医師は、3つの大学附属病院のほか、14の関連施設で診療にあたるとともに、初期研修医、後期研修医や医学生の教育にも力を注いでいます。また研究面では、小児の腸内細菌叢に関する研究を中心に、多くの有名英文医学雑誌に掲載される実績を残しています。さらに国内外の著名な研究者を頻繁に招聘し、臨床面や研究面での助言をもらうとともに、留学希望者の受入れ先にもなってもらっています。
教育面、診療面そして研究面でもわが国トップクラスの設備とスタッフを有する当講座は、次代を担う小児科医と病気と闘う子供を全力でサポートしています。
正常な腸内細菌叢の確立過程から見た小児慢性疾患の病因解明
当講座では幅広い分野、すなわち小児腎臓病学、小児血液・悪性腫瘍学、小児アレルギー・免疫学、小児神経学、および小児心身医学などにおいて様々な基礎研究や臨床研究を行っていますが、教室の研究のメインテーマは「腸内細菌叢を始めとする常在細菌叢の異常と小児疾患の関連」です。
腸内細菌叢は、ヒトの腸内でバランスを保ちながら存在する多種多様な細菌集団で、ヒトの健康保持において重要な役割を担っています。3歳頃までに正常な腸内細菌叢が確立されないと、アレルギー疾患や肥満、発達障がいなどの原因になるという考え方が近年注目されています。その他、従来、無菌と考えられた尿中の細菌叢(尿細菌叢)の変化と様々な泌尿器疾患との関連性や皮膚の常在細菌叢とアトピー性皮膚炎の関連なども報告が増えています。
当講座では、様々な小児疾患患者の糞便や尿、皮膚の擦過検体を用いて次世代シークエンサーで常在細菌叢を解析し、その異常を検出するのみならず、プロバイオティクス(健康増進効果をもたらす生きた微生物、またはそれを含む食品)やプレバイオティクス(大腸の特定の細菌の増殖および活性を変化させることで宿主の健康を改善する難消化性食品成分)によって腸内細菌叢を是正することで治療介入ができないか、検討を行っています。
現在の研究テーマ:常在細菌叢の異常と小児疾患の関連
小児のアレルギー疾患と常在細菌叢の異常の関連
食物アレルギー、アトピー性皮膚炎や気管支喘息の小児患者においても、腸内細菌叢の異常、特に酪酸産生菌の減少が認められることが報告されています。また、アトピー性皮膚炎の患者では皮膚の常在細菌叢において黄色ブドウ球菌が増加することが分かっています。そこで、当講座では、常在細菌叢を標的とした新たなアレルギー疾患の予防法や治療法の開発を目標に研究を行っています。現在は食物アレルギーの患者を対象としてプレバイオティクスを継続投与することにより、腸内細菌叢の異常を是正し、ひいては食物アレルギーを軽快させるか否かを明らかにするための臨床研究をすすめています。
小児の特発性ネフローゼ症候群における腸内細菌叢の異常
当講座では長年、特発性ネフローゼ症候群の病因研究、すなわち大量のタンパク尿の出現機序の解明を目指してきました。近年、私たちのグループが中心となって「腸内細菌叢の乱れが制御性T細胞の分化・成熟を始めとする腸管免疫の異常を引き起こし、タンパク尿を出現させる」という仮説を提唱しています。この仮説を検証すべく、臨床研究や基礎研究を行っています。
川崎病と腸内細菌叢の異常の関連
川崎病は 5 歳までの小児に好発する全身性血管炎です。無治療の場合には約 25~30%に心臓の冠動脈に拡大性病変を合併しますが病因は未だ特定に至っていません。発症リスクを高める環境因子として帝王切開出生児、人工乳栄養児や抗菌薬使用歴があることなどが報告されていますが、いずれも腸内細菌叢を撹乱させる因子として知られています。そこで当講座では腸内細菌叢の乱れが川崎病の発症リスクになると仮説を立てて研究を進めています。現時点で患者の腸内細菌の内、炎症を惹起する菌が増加していることを明らかにしています。今後、腸内細菌が産生する代謝産物と川崎病との関連について研究を進めていく予定です。
小児の夜尿症と尿細菌叢の異常の関連
これまで健康なヒトの尿は無菌と考えられていましたが、近年の研究から尿細菌叢が存在していることが明らかになってきました。これまで、成人において尿細菌叢の異常は腎・尿路系の疾患、すなわち尿失禁、尿路感染症や尿路結石などに関連していることが報告されています。当講座では、夜尿のある小児の尿細菌叢は夜尿のない小児の尿細菌叢と異なっているのではないかと考えて検討を行っています。もし小児の夜尿症の原因の一つとして尿細菌叢の乱れが関係していることが明らかにできれば、それを是正することで、夜尿症が改善するか否かを明らかにするための臨床研究も計画しています。
小児がん患児の認知機能評価
白血病や固形腫瘍に対する頭蓋照射、化学療法は、認知機能障害を引き起こすリスクがあります。小児がん患児の認知機能評価には、WISC(Wechsler Intelligence Scale for Children)が広く用いられていますが、WISCだけでは十分な評価ができない可能性が指摘されています。DN-CASは、WISCでは評価できない認知処理過程に焦点を当てた新しい検査法です。関西医科大学小児科では、リハビリテーション科と共同で最新版の日本版WISC-VとDN-CASを用いて、両者の特性を活かし、小児がん患児の認知機能障害の特性を明らかにする研究を行っています。小児期の認知機能障害を早期に発見し、適切な支援や治療を行うことで、患者のQOL(生活の質)向上に繋がると考えています。
起立性調節障害の新しい治療法の開発
近年、不登校との関係で注目され、患者が急増している小児・思春期の起立性調節障害への新しい治療法を開発しています。海外のガイドラインでは、非薬物治療が薬物治療より推奨されていますが、国内では知られていません。本講座では非薬物療法の中でも最も推奨度が高い水分摂取(生理的食塩水点滴静注)と運動療法(ベッド上のリカンベントエルゴメーター運動)の有効性を検討しています。さらに運動療法に関しては、特許を取得し、ベッド上臥位で運動が可能な運動療法機器開発を目指しています。
研究業績