医化学
生体分子の立体構造から機能を探り、新たな治療法の開発につなげられる医学研究に挑戦する
医化学とは、医学部で学ぶ生化学分野であり、生命現象を司る生体分子の化学反応を理解し、医療に役立てようとする学問です。私たちは、蛋白質科学(構造生物学、生化学など)と神経科学的アプローチにより、蛋白質分子の機能を原子レベルから個体レベルまで解析することで、生体における蛋白質分子の生理的及び病態生理的な役割を解明します。「くすり」の標的となる蛋白質分子を制御する化学物質・分子を探索・設計することで、治療法の開発および創薬に挑戦しています。研究手法としてはカラムを用いた古典的な「蛋白精製」から、最新の「ゲノム編集」、「構造解析」、「分子イメージング」、「行動解析」まで多様なアプローチを試みます。医学において基礎研究は、常に新しい発見が求められます。しかし、世界で誰よりも早く新しいことを発見することは決して簡単ではありません。夢を諦めない強い精神力、そして一緒に乗り越える仲間は不可欠です。実験には研究者の柔軟な発想力・思考力、斬新なアイデア、チャンスを逃さない行動力・決断力が必要となります。医化学講座では異なる分野の研究バックグランドを持った仲間がたくさんいます。一人一人のアイデアを大切にしてお互いに協力することで、それらのアイデアを一つ一つ形にしていきます。そんな環境の中で私たちと一緒に研究してみませんか?まだこの世界に誕生していない歴史に残るような新しい「くすり」を開発し、次世代に貢献してみませんか。
最近の研究紹介
身体の中の無数の生体分子は、相互に密接に作用することで「生命」を営んでいます。これら生体分子の構造や機能の解明は、病気の原因を明らかにし、治療を助ける「くすり」の開発に繋がります。医化学講座でおこなわれた生体分子の研究 として、1)ある1つの「蛋白質」が神経機能におよぼす影響と、2)生体内において重要な受容体の性質と詳細な結晶構造を解明した研究を紹介します。
1. 痛みの制御分子の欠損が神経機能におよぼす影響(片野 泰代准教授)
触覚や温痛覚などの体性感覚は、脊髄後角という「関門」で、強弱が調節され、それが脳で認識されています。医化学では脊髄での関門機構に着目し、疼痛治療に役立つ研究を目指しています。そして新しい痛みの制御分子としてCASK interacting protein1 (Caskin1)を脊髄から見つけました。慢性的な疼痛は、抑うつ傾向などの精神状態にも強く関与します。Caskin1が欠損したマウスでは、痛みに対する感受性が増大するだけでなく、より強い恐怖を感じることを明らかにしました。Caskin1の研究は、痛みだけでなく精神疾患など広く神経系の病態解明に寄与することが期待できます。
2. 選択的作動薬結合型のムスカリンM2受容体の構造解析(寿野 良二准教授)
ムスカリンM2受容体は薬剤ターゲットであるGタンパク質共役受容体(以下GPCR)のファミリーのClass A GPCRのひとつです。Class A GPCRはナトリウムイオンと結合して不活性型に安定化する性質を持っています。ナトリウムイオンを必要としない変異体は受容体を安定化することが構造情報から示唆され、さらにリガンドの親和性も向上することができました。この変異体を他の様々なClass A GPCRに用いることで構造解析が飛躍的に効率化でき、副作用を軽減するような選択的な薬剤開発に役立つことが期待されています。
研究業績