整形外科学
当科のテーマでもある股関節疾患に対する治療として、人工関節手術を主に多数手術を行っています。また、高度変形、骨欠損、感染などによる難易度の高い疾患に対しても、積極的に手術を行っています。若年者に対しては臼蓋形成術、骨切り手術、内視鏡下修復術なども行っています。
膝関節疾患はスポーツ外傷などに対して靭帯再建手術や鏡視下半月板手術を行っています。高齢者の変性疾患に対しては骨きり術や人工関節を行い、除痛と機能回復に努めています。
脊椎疾患は腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症、腰椎すべり症に対して、顕微鏡視下の低侵襲手術やインストゥルメントを使った脊椎固定術など脊髄機能回復、根性痛の改善を行っています。また頸椎疾患に対しても必要に応じ顕微鏡等を用いて安全確実に手術を行っています。その他、救命救急センターと協力して重度四肢外傷や脊髄損傷の治療にもあたっております。
整形外科分野の新たな診断と治療方法を確立していく
現在の脊椎手術方法は、これからますます発展していく分野です。10年前は大手術といわれていた成人脊柱変形手術も小侵襲手術を行うことができるようになったり、また、できる限り安静臥床による保存的治療を行っていた椎体圧迫骨折は、椎体形成術により早期に離床させることができるようになりました。しかし、これらには安全性を確立する必要があります。私たち整形外科学講座は術中モニタリングシステムの診断と開発に力をいれています。齋藤主任教授の指導のもとで術中モニタリングシステムの開発をおこなっていきます。インプラント感染は術後合併症の大きな問題です。現在は細菌の同定には培養による方法しか行われていません。しかし、弱毒菌は抗菌剤でマスクされていますため細菌同定が困難です。当講座では次世代シークエンサーによる遺伝子同定の確立を進めており、少量の細菌でも細菌同定ができるように研究を進めています。年齢や性別によって骨格が変形していき、年代ごとの正常な骨格は異なります。転倒予防や骨粗鬆症など寝たきりにならないための、健康長寿の解明のために疫学調査も行っています。
現在の研究テーマ
術中脊髄モニタリングシステムの開発
脊椎手術をより安全に行うために、術中脊髄モニタリングは有用な手術支援機器であり、近年多くの施設で用いられるようになってきました。脊髄モニタリングは感覚系モニタリングと運動系モニタリングに大別されます。更に、それぞれのモニタリングにもいくつかの方法がありますが、それぞれ長所と短所があります。当講座では、他施設に先駆けて術中モニタリングの開発に取り組んでおり、経頭蓋電気刺激筋誘発電位(運動系モニタリング)と体性感覚誘発電位(感覚系モニタリング)を組み合わせた術中モニタリングを行っています。非常にすぐれた組み合わせですが、麻酔の影響や長時間の手術による波形減衰など改良が必要です。齋藤主任教授は日本臨床神経生理学会で以前から学会活動を行っており、術中脊髄モニタリングの第一人者です。齋藤主任教授とともに新たな診断方法の開発に取り組んでいきます。
次世代シークエンサーを用いた、細菌同定方法の構築
従来の細菌培養ではインプラントに付着するバイオフィルムなどで、細菌の同定ができないことがあります。当講座で注目しているのは、感染インプラントに対する「超音波洗浄」です。超音波洗浄によってバイオフィルムを破砕し、細菌内のrRNAを摘出することができます。次に、rRNAの細菌同定には「次世代シークエンサー」を使用します。次世代シークエンサーは従来のPCR方法に比べ能率的に細菌を同定することができます。これらの組み合わせは、従来検出されなかった細菌感染を遺伝子レベルで検出することができる、注目すべき検査方法です。臨床研究では超音波洗浄によるRNAの検出方法の確立と、次世代シークエンサーによる細菌遺伝子同定に適した方法を確立し、臨床に応用していきます。
健康長寿を目的とする予防医学の発展と地域連携の構築
日本人男性の「平均寿命」は約79歳、女性は86歳と、日本は世界有数の長寿国となっています。一方で、日常生活に制限のない「健康寿命」は男性で70歳、女性が73歳といわれ、「健康でない期間」が約10年間あります。寝たきりの原因のうち、脳血管障害や認知症に次いで第3位に「骨折・転倒」があげられています。全国で京丹後地域は長寿が多い地域といわれ、100歳以上の人口は10万あたり135人と報告され、全国平均約50人の2.7倍です。私たち、関西医科大学整形外科学講座は京丹後市立弥栄病院整形外科に医局員を派遣しており、地域医療に携わってきました。また、関西医科大学附属病院は大阪府北河内医療圏の健康管理や治療を行っています。特に、附属病院がある枚方市は全人口約41万人のうち65歳以上の高齢者人口の占める割合は23%(約11万人)とされています。当講座では枚方市を中心とする北河内医療圏の人々と長寿人口が多いとされる京丹後地域との骨・運動器の比較を行い、運動器からみた健康管理の取り組みを進めています。
脊磁計の開発と末梢神経・筋疾患への適応拡大に関する研究
現在、脊椎・末梢神経系の機能検査法としては電気生理学的手法が一般に用いられてきており、脊椎疾患や末梢神経の絞扼性神経障害、神経内科的疾患などが対象とされています。しかし、脊椎の場合には脊髄が深部に存在しているため脊髄の電位の記録には硬膜外電極や手術により脊髄近傍から直接誘発電位を記録することが必要です。一方、絞扼性神経障害に関しても、胸郭出口症候群や梨状筋症候群などの体幹の深部に病変が存在する疾患ではその記録が困難になる欠点がありました。近年、神経や筋の電気的活動をその周辺に発生する磁場を捉えることにより推定する方法の開発が行われてきています。磁場は周辺の組織の影響を全く受けないため、深部に存在する神経系の機能評価に適しており、今後の実用化が待たれています。我々は、金沢工業大学と横川電気が開発してきた脊椎用の超伝導素子を脊椎と末梢神経に応用するため、関西医科大学内に開発中の神経磁界計測装置を設置し健康成人や神経疾患を有する患者さんを対象として東京医科歯科大学と共同研究を行っており、機器の改良や末梢神経のみならず筋への応用も視野に入れ今後研究開発をして行く予定です。
研究業績