英語
医療系大学における英語教育は、「医療人が必要とする英語能力の習得」が大前提となります。そのため本教室では、医学部において医学英語、看護学部において看護英語、リハビリテーション学部において医療英語に特化した教育を行っています。さらに大学院において、医学・医療研究とその成果発表に必要な英語スキルに焦点を当てた教育を行っています。
医学部では、1年生と2年生で、身体の構造と仕組み、病気について英語表現を学習します。英語のmedical terminology(医学専門用語)の習得、様々な疾病に関するビデオ教材を利用したlisteningとreadingの訓練、医療場面における他の医療従事者や患者とのcommunicationの練習、症例報告の読解などを通して、2年間の学習で基礎的な医学英語スキルが身につくようにカリキュラムが設計されています。
根拠に基づいた医学英語教育を目指す
医学生が卒業までに習得すべき内容を定める目的で、日本医学英語教育学会が「医学教育のグローバルスタンダードに対応するための医学英語教育ガイドライン」を2015年に策定しました。本ガイドラインは、学習のアウトカムとして、医学部卒業時に全員が習得すべき内容を「minimum requirements」、能力向上のために習得が望ましい内容を「advanced requirements」と定義しています。本学の医学英語教育の到達目標は、ガイドラインのminimum requirementsをコアとし、継続的に見直していきます。
また、学習法において、「医学教育分野別評価基準〜日本版〜」に求められる能動的学習を促進し、ICTや反転授業を活用していきます。さらに、医学英語の授業内容を同時期に行われる基礎社会系授業と将来的には臓器別系統別授業に合わせることにより、水平・垂直統合に貢献していきます。
最後に評価法においては、設定された学習到達目標を基準とすることが大前提となります。大学入試での英語能力評価法は、2技能から4技能評価へと変化しつつあります。With・postコロナ時代は、学習も評価も遠隔で可能な体制が求められるなど、教育全般における評価法が今後大きく変化すると思われます。どれだけ暗記して覚えているかではなく、到達目標としている個々のスキルが身についたかを判断できる新評価法の開発が必要となります。医学英語における形成的評価も総括的評価も一人ひとりの学生を縦断的にフォローし行っていきます。
現在の研究テーマ
医学英語教育カリキュラムの標準モデルの開発
国際化が進む現在、医師にとって英語は「必須のスキル」であり、医学部における英語教育は、「医師が必要とする英語能力の習得」が大前提となります。しかし、その教育内容や到達度の目標設定は統一されていないのが現状です。
そこで、医学生が卒業までに習得すべき内容を定める目的で、日本医学英語教育学会が「医学教育分野別評価基準日本版(グローバルスタンダード)に対応するための医学英語教育ガイドライン」を2015年に策定しました。本ガイドラインは、医学部卒業時に全員が習得すべき内容と、能力向上のために習得が望ましい内容を定義し、「英語で教科書・論文を読み、理解できる」「患者に英語で面接し診察できる」「学会等において英語で発表討論できる」ことを学習のアウトカムとし、その達成のために教員は普段から医学英語を講義で使うように心がけることが望まれるとしています。
「医学英語を学ぶ」のではなく、「医学を英語で学ぶ」という内容言語統合型学習(Content and Language Integrated Learning;CLIL)を教育方法として採用し、全科目が完全に英語のみで行われる先進的な医学英語教育が実施されている医学部もある一方で、多くの医学部では、必ずしも医学英語が専門でない英語教員が、第1学年のみの限られた時間数の中で医学生に必要な英語能力を習得させる任務が課せられています。
本研究では、上記のガイドラインおよびCLIL方法論などの応用言語学・教育学の理論に基づいて、到達目標、教授法、評価法を標準化し、日本の全医学部において実現可能な医学英語教育カリキュラムの標準モデルの開発を目指しています。
抽象概念が多い医学英語をメタファー的表現への言い換えにより理解や記憶を容易にさせる
Bergen(2012)の提唱するEmbodied Simulation理論は、言語を理解する時、脳内で起こることを解明しようとするものです。つまり、視覚に関する言葉を見聞きすれば、脳内では視覚野が活性化されるというように、言葉の内容を実際に経験している時と同じ脳部位を使ってシミュレーションすることで言語を理解しているのです。言語理解を身体的プロセスであるとみなす理論はLakoff and Johnson(1980)やJohnson(1987)をはじめとして認知言語学の分野で提唱されてきました。Bergen(2012)ではfMRIやTMS(経頭蓋磁気刺激法)、視線のトラッキングといった様々な脳科学的・心理学的実験を行うことで、この理論の信憑性を大いに飛躍させました。このEmbodied Simulation理論を発展させ、Bergen(2012)はMetaphorical Simulation Hypothesisを提唱しました。この仮説では、抽象概念を理解する時にも具象概念を使ってメタファー的にシミュレーションを行っているのではないかと考えます。この仮説を検証する研究として現在進めているテーマが「抽象概念が多い医学用語もメタファー的表現を用いて言い換えることで、理解や記憶が容易になるのではないか」というものです。具体的には、各疾患を説明する際、どのようなメタファー表現を用いることが出来るか、またどのようなメタファー表現であれば患者さんや医学生にとって理解が容易になるかについて研究をしています。
研究業績