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学部・大学院

救急医学

私たちの救急医学講座は、平成24年4月に発足した学内でも新しい講座です。前身は、昭和54年に附属滝井病院に救命救急センターを発足した救急医学科の学問集団であり、若い講座でありながらも長い伝統と研究業績を有しています。現在では、診療部門として附属病院高度救命救急センター、総合医療センターの救命救急センターを擁し、重度外傷やショック、中枢神経系損傷、急性冠疾患、急性呼吸不全、腹部救急、広範囲熱傷、中毒、重症感染症や、心停止後の脳蘇生など多岐にわたる重症救急病態を対象とした研究を展開しています。

わが国の救命救急医療は、戦後の高度経済成長期の社会問題に対応する形で誕生しました。交通事故や労働災害で生じる重度多発外傷、ガス自殺などによる一酸化炭素中毒など、従来の診療科専門領域の枠をはずれる外因を対象とし、その中からとりわけ重篤な症例を集めて診療したのです。初期には、もっぱらこれら外因例を対象として救急医学の学問体系が形成されました。その後、徐々に対象を呼吸不全や循環不全を伴う重症疾病(内因)に拡げると、行政側が、内因・外因を問わず重症傷病を専門に診療する基幹施設を「救命救急センター」として指定し、各地に設置するようになりました。

現在の救命救急センターでは、あらゆる年代の重症救急例を24時間受入れて、高度医療を提供する体制が必須であり、救命救急医と院内各診療科の専門医が、個々の重症救急例の病状・病態に応じて、臨機応変に診療チームを形成することが重要です。このため、傷病そのものの病因・病態研究に加え、救急外来、集中治療室にいたる救命診療の過程での救急専門医、各科専門医、看護師、放射線技師など多職種のチーム診療やワークフローのあり方、そしてその教育法も重要な研究対象となっています。また、スマートフォンとICカードを用いた電子トリアージシステムの開発などの災害医学研究や、ステーション方式で展開するドクターカーシステムなど、病院前(現場から病院まで)救急システムの研究にも取り組んでいます。このように、臨床医学分野はもちろん、自然科学の領域から制度設計を含む社会医学の分野まで、急性期医療全般を対象とする幅広い研究と、研究者の育成を行っています。

自然科学の領域から制度設計を含む社会医学の分野まで、幅広い救急医学研究で社会に貢献

救急医療は「医の原点であり、かつすべての国民が生命保持の最終的な拠り所としている根源的な医療」と定義されています。当科は、生命に危機を及ぼすような呼吸・循環の以上を来たす重篤な疾病、重度外傷、脳卒中、敗血症をはじめとする重症感染症、急性中毒、広範囲熱傷など、多様な重症救急症例を収容し、高度専門技術を駆使した救命救急医療での診療を行うとともに、各種重症救急病態の研究を通じて、よりよい治療法の開発を目指しています。また、行政とも連携し、社会医学的研究を展開することによって、救急医療体制の構築・整備を行う役割も担っています。

臨床医学分野はもちろん、自然科学の領域から制度設計を含む社会医学の分野まで、急性期医療全般を対象とする幅広い研究と、その最新の知見を活かした高度医療の実践によって社会貢献することが、当講座の使命です。

現在の研究テーマ

敗血症における心・循環動態機能変化および酸素代謝異常の発生機序の解明とその制御に関する研究

敗血症ショックの血行動態は、過度の炎症性サイトカイン産生とそれに伴う各種血管拡張性メディエータの発現により、治療抵抗性の末梢血管抵抗減弱状態すなわちvasomotorparalysisをきたすという特徴を持ちます。

私たちは、ウサギに対してエンドトキシンや炎症性サイトカインの一つであるIL-βを投与することによって、典型的な末梢血管抵抗減弱型のショックを惹起して敗血症ショックの循環動態を再現し、心拍出量や酸素運搬量を自在に変化させながら個体の酸素消費量や組織血流を観察できるモデルを独自に開発しました。このモデルを用いて、実験的敗血症時には、酸素運搬量の多寡に関わりなく酸素消費量が一定に保たれるべき領域で酸素運搬量依存性の酸素消費量減少が生じることを確認しました。

また一部の血管作動性メディエータの作用を抑制することにより、病的に発現するメディエータの局在がこの病態に重要な役割を果たしていることを実証しました。この知見から敗血症ショックに対する単なる昇圧剤、血管収縮薬の全身投与は有害事象を招くことが容易に推測され、病的酸素代謝を改善する上でメディエータ阻害がより重要と捉え、制御法開発に取り組んでいます。

更に、近年では神経系-炎症反応関連作用による効果など様々な薬理学的作用があるとされるチアゾリン類恐怖臭物質に着目し、同物質が私たちの実験的敗血症性ショックモデルを用いて作成したα刺激薬投与を必要とする重篤なvasoparalysis状態に対して、臓器・組織血行動態への改善効果が期待できることを確認しました。その血行動態改善の機序について心室圧-容積のヘモダイナミクス解析によって循環生理学的要因を詳らかにし、新しい循環管理法の開発に着手しています。

虚血再灌流障害に対する治療薬の開発

当教室では腸管の虚血再灌流障害を軽減させることのできる薬剤の開発を行っています。一般的に虚血が起きると組織障害が始まり、その後血流再開が起きた際に障害が顕在化することが知られています。主にその障害の程度は虚血時間に依存し、その障害は多くの臓器で起こります。血流遮断と再開通の際に生じる障害のことを特に虚血再灌流障害(Ischemia Reperfusion injury)と呼んでおり、脳梗塞や心筋梗塞の治療後にも起きることが知られています。

我々は他の動物モデルや心筋・脳の虚血再灌流の障害軽減に効果があると報告されている薬剤をマウス腸管虚血再灌流障害モデルに使用することでその障害の軽減が可能かどうかを検討しています。腸管虚血再灌流障害モデルマウスに対し薬剤を投与し、腸管組織HE染色の組織障害スコア、血清サイトカイン(TNF-α、IL-6)、補体や抗体(IgM)の免疫染色などを用いて群間比較を行っています。実際の臨床の分野で患者の予後を左右する腸管虚血再灌流障害を軽減する方法や薬剤は確立しておらず、本研究は救急・集中治療の分野で患者の予後改善につながり、新たな治療法の選択肢となりえます。

重症熱中症モデルに対する2-methyl-2-thiazolineの効果の検討

熱中症に伴う播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)、多臓器不全の進行には、全身性の血管内皮障害や細胞死が関与します。過剰な炎症性サイトカインの産生とそれに伴う血管内皮障害、微小循環障害から多臓器障害が進行し予後に重大な影響を与えます。ショックや臓器障害が進行する原因である炎症カスケードを制御し、根本的に病態を改善する抗炎症療法は多年に渡り研究されてきました。しかし全身炎症反応を制御し生存転帰を改善させる治療法はいまだ十分に確立されてはいません。

本研究の目的は、重症熱中症に対する新たな治療戦略として、チアゾリン類恐怖臭(Thiazoline-related fear odors: tFOs)の1つである2MT(2-methyl-2-thiazoline)投与の有用性を評価することとしました。動物において2MTは生体内では抗炎症作用を有することが明らかにされており、重症熱中症ラットモデルに2MTを投与し、血清サイトカイン値や各臓器における組織障害スコア、白血球浸潤、血管内皮細胞障害について評価を行います。

実際の臨床の分野で患者の予後を左右するDICや多臓器不全の進行を軽減する方法や薬剤は確立しておらず、本研究で結果を得ることができれば、救急・集中治療分野での患者の予後改善につながり、新たな治療法の選択肢となリます。

開放骨折症例での迅速感染症診断を可能にする超小型シークエンスシステムの確立

開放骨折治療において感染管理は治療の要であり、開放創部の処置に加えて早期かつ適切な抗菌治療が求められます。現在の開放骨折治療でも言われている6時間ルールは1989年に豚の創部での細菌の増殖量を元に言われたものが現在も用いられているのが現状です。また、現在の標準的な検査である細菌培養法では結果を得るのに数日を要するため、やむを得ず経験的に抗菌薬を選択、使用することが多いのが現状です。

さらに、培養が困難な細菌には対応できないことから、感染に関わる細菌種について得られる情報も限定的であり、迅速かつ精度の高い菌種の同定が求められます。また、非開放性の骨折と比較し開放骨折は感染率が高いが、受傷時の細菌の付着が感染の原因となっているのか、治療経過中に開放創部から感染するものなのかに関して明らかとなっておらず、経時的な検体採取を行い、どの時期で感染が惹起されているのかに関しても明らかとします。

従来の培養検査による感染症診断の欠点を補う新技術として、病原菌の遺伝子解析に基づく検査法が開発されています。遺伝子検査による細菌同定では、全ての細菌が有する16SリボソームRNA(16SrRNA)遺伝子が系統分類の指標としてよく用いられています。検体中に含まれる細菌の遺伝子配列を取得・解読することによって、幅広い種類の細菌を客観的かつ高精度に同定することが可能です。さらにDNAを解析対象とすることから培養不可能な細菌の同定においても効力を発揮します。

近年、超小型ナノポアシークエンサーMinION(Ologixford Nanopore Technologies社)が開発され注目を集めています。研究者らはMinIONの特徴である長鎖DNAシークエンシング技術がもたらす解像度の高さ、リアルタイムデータ解析(遺伝子配列の取得と配列検索・菌種同定を平行して実行する)による迅速性を活用し、検体の取得から最短で3時間以内に細菌を種レベルで同定することに成功しました。

核酸シークエンス技術を用いた細菌同定法は、救急・集中治療領域での臨床応用は未だなく、当該分野への適応性および診断法としての評価を定まっています。そこで本研究では研究者らが確立したMinIONによる病原細菌同定法を更に発展させ、救命・救急医療の開放骨折患者において直面する様々な感染症の迅速診断法としての有用性を検証し、臨床的アウトカムの向上に繋がる技術基盤の確立を目指します。

連絡先

〒573-1010 枚方市新町二丁目5番1号
関西医科大学 救急医学講座
電話 教授室 072-804-2483

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医学部 救急医学講座
大学院 医科学専攻 救急・災害医学

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