リハビリテーション医学
リハビリテーション科は、神経疾患、骨関節疾患、呼吸・循環器疾患、小児疾患やがん、加齢などに伴って起こる生活機能上の問題を診断・治療する診療科です。平成30年1月に開講となったリハビリテーション医学講座の使命は、医科大学として、急性期・回復期・生活期におけるリハビリテーション診療の担い手を育成するとともに、地域包括ケアの展開に向けた治療システムを構築することにあります。ヒトとしての活動を支え、個人のQOLを高める医療を展開するためには、ご家族を含めたチーム医療を医学的見地から管理し、社会資源の活用を含めた総合的アプローチを統率する能力が必要です。本医学講座では、歩行などの動作や、嚥下、排泄、認知などの生活に関わる機能評価法の標準化、活動再建に有効な感覚情報を処理させる治療的課題の開発、健康寿命の延伸を図るためのチーム医療に必要な情報管理システムの構築とその運用を目指しています。
リハビリ医学が目指す活動再建の治療戦略
システム理論に従うと、活動の状態、すなわちパフォーマンスは、個体・課題・環境の相互作用によって規定され、個体における問題に適応した活動は、課題と環境を操作することで誘導できます。しかしながら、このような適応的な活動再建では、個体の機能を改善することは困難であるばかりか、機能回復を妨げてしまう原因にもなります。身体機能の回復を第一義とするリハビリ医学では、感覚-運動統合を導く感覚情報を選定し、感覚運動学習に基づいた活動再建が優先されなくてはなりません。私たちは、超高齢化を迎えた地域社会において、活動再建を簡便かつ効果的に実践できる治療システムの開発を目指しています。
現在の研究テーマ
臨床的データマイニングによる動作分析の標準化と治療への活用
冗長性を持つヒトのパフォーマンスを評価するには、身体活動に関わる多面的な要素を解析し、その結果を「見える化」する手続き、すなわち、データマイニング(datamining)が必要です。私たちは、ヒトの重要な移動手段である歩行について、表面筋電図や床反力、三次元解析などを行い、機械学習、クラス分類、クラスタリング等の手法を用いて動作分析の結果を標準化するとともに、リハビリ治療に活用することを目指しています。
治療的課題の開発と臨床応用
活動再建のための治療的課題が具備すべき条件は、病態に対応した感覚-運動統合を導く感覚情報が含まれることです。生活空間において感覚情報を処理する機会が減ると、運動戦略は画一化し、活動の幅は縮小してしまいます。要介護の三大原因である脳血管障害、認知症、高齢虚弱に対して、介護保険ベースにおいても活用できる治療的課題の開発に力を入れています。最近の研究テーマとしては、
1)麻痺患者に対する足関節制御ロボットの開発:AMED未来医療の助成を得て、国際電気通信基礎技術研究所で開発された空気圧人工筋による短下肢装具脱着式ロボット(Rob-AFO)を片麻痺歩行の練習に使用し、足部の荷重量を制御させる練習課題が歩行再建に果たす役割について臨床研究を行っています。
2)認知機能障害に対する複合現実技術の応用:認知症予防に有効とされる身体運動と認知トレーニングを同時に実施できるように、複合現実技術を用いた認知課題を開発し、高次脳機能障害や軽度認知障害等の評価ならびに治療への適用を試みています。
3)デュアルトレッドミルによるバランス練習:トレッドミルを2台連結して、前方および側方に配置したボタンをランダムに押す課題を考案し、リーチ動作を含めて前後・左右に乗り移る課題を効率よく実施することで、オープンスキルを主軸としたバランス練習を展開し、健康寿命の延伸を図ります。
研究業績