肝臓外科学
肝臓外科では手術後の合併症を起こさない、安全かつ丁寧な手術を行うことをポリシーとし、年間180例以上の原発性肝細胞癌、転移性肝癌、肝内・肝門部胆管癌、胆嚢癌、巨大血管腫などの肝切除術を行うなど、徹底した癌根治手術を追究しています。また手術前後の肝臓・胆道領域の抗癌化学療法も数多く行っています。
患者さんにとって一番よい治療方針をご提案するため、病態の原因解明のための基礎研究に始まり、多くの臨床研究、新しい手術術式の開発、術後合併症克服の工夫など、多くの研究課題に取り組んでいます。
現在の研究テーマ
安全確実で低侵襲な肝臓手術手技と周術期の取り組み
肝臓外科では、全国有数の肝切除症例数(全国5位以内)を有し、その約7-8割を腹腔鏡下手術で施行しています。腹腔鏡手術は拡大視効果により微細な脈管・胆管構造を精緻に把握できるため、繊細かつ確実な操作が可能となり、安全で低侵襲な肝切除を実現しています。当科では、さらなる治療成績向上と安全性確立を目指し、各術式の定型化・標準化に向けた臨床研究を推進しています。
術前には3D-CTを用いた詳細な手術シミュレーションを行い、肝内脈管走行や切除範囲を正確に把握したうえで、術中ナビゲーションに活用しています。また、肝切除後の肝機能維持を目的として、従来の門脈塞栓術(PVE)に肝静脈塞栓を追加することで残肝容積を最大化する術前戦略を導入しています。
術中においては、術前シミュレーションによる解剖学的把握に加え、低中心静脈圧(Low CVP)麻酔管理、Pringle法による流入遮断、肝離断手技の定型化、各種エネルギーデバイスの活用により、安全で出血量の少ない肝切除を実践しています。さらに、ICG蛍光法を用いた胆汁漏検出を行うことで、術後合併症である胆汁漏の低減に努めています。
近年では、ロボット支援下腹腔鏡下肝切除も導入し、腹腔鏡手術の低侵襲性を維持しながら、操作性・視認性・精度をさらに向上させた手術を行っています。高精細3D視野や多関節鉗子を活用することで、より精密かつ安全な肝切除が可能となっており、将来的にはAI技術やナビゲーションシステムとの融合によるさらなる発展が期待されています。
加えて、肝切除後予後予測システムの開発に関する国際共同研究にも取り組み、個別化医療の発展を目指しています。また、「関西肝臓外科育成の会」を立ち上げ、高度技能専門医の育成を通じて、次世代の肝臓外科医育成にも積極的に取り組んでいます。
肝臓外科における包括的周術期管理
肝切除では、術前評価から術後回復までを一貫して管理し、肝不全・出血・感染症・胆汁漏などの合併症を予防することが重要です。当科では、科学的根拠に基づいた周術期管理を集学的に実践するERAS(Enhanced Recovery After Surgery)プロトコールを導入し、包括的周術期管理を行っています。
術前には、残肝機能評価に加え、心肺機能評価、栄養状態評価、サルコペニア評価を実施しています。その上で、術後回復促進を目的として、運動療法、呼吸訓練、栄養介入などのプレハビリテーションを積極的に行っています。
疼痛管理においては、「術後ペインフリー」を目標とし、硬膜外麻酔や局所麻酔に加え、術後のNSAIDsやアセトアミノフェンの定期投与を組み合わせたmultimodal analgesiaを実践しています。これにより、術後疼痛軽減のみならず、早期離床や呼吸機能維持にもつなげています。さらに、術後サルコペニア予防への取り組みとして、肝がん手術症例に対する周術期運動療法を導入しています。併設する健康科学センターでは、専属トレーナーによる個別運動プログラムを実施し、術後も継続可能な運動習慣の指導を行っています。また、がん患者さんの身体機能維持・改善を目的として、EMS(Electric Muscle Stimulation)を用いた身体機能改善効果の検証にも取り組んでいます。
近年増加している高齢者肝切除症例に対しては、年齢のみで判断するのではなく、高齢者総合機能評価を用いたスクリーニングを行い、安全性を十分に担保した上で肝切除を施行しています。このように、当科では低侵襲肝切除とERASに基づく包括的周術期管理を両輪として、患者負担軽減と早期社会復帰、さらには長期予後向上を目指した肝臓外科診療を展開しています。
切除不能肝細胞癌、切除不能胆道癌に対する取り組み
<切除不能肝細胞癌に対する治療>
切除不能肝細胞癌に対しては、患者さんの病状や肝機能に応じて、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を含む全身薬物療法を積極的に行っています。また、必要に応じて、肝動注化学療法や局所治療を組み合わせることで、腫瘍をしっかり抑えながら、肝機能をできるだけ守る治療を目指しています。薬物療法で良好な治療効果が得られた場合には、手術や局所治療を含む追加治療が可能かどうかについても、慎重に検討しています。
<切除不能胆道癌に対する治療>
切除不能胆道癌、特に肝内胆管癌、肝門部領域胆管癌、胆嚢癌などに対しては、免疫チェックポイント阻害薬を含む三剤併用薬物療法を積極的に導入しています。さらに、がんの特徴を詳しく調べるために、遺伝子パネル検査も活用しています。これにより、患者さん一人ひとりのがんの性質に応じた、個別化治療にも取り組んでいます。
当科の大きな特徴は、薬物療法だけで治療を終えるのではなく、治療の途中で繰り返し、「手術ができる状態になっていないか」を評価している点です。薬物療法により腫瘍が縮小し、手術が可能と判断された患者さんには、根治切除を目指したコンバージョン手術を積極的に行っています。当科の検討では、切除不能胆道癌の約4人に1人でコンバージョン手術が可能となっていました。これは、これまで手術が難しいと考えられていた患者さんにも、長期生存を目指せる可能性があることを示しています。

コンバージョン手術ができた場合でも、治療はそこで終わりではありません。再発予防を目的とした術後補助化学療法を含め、患者さんの状態に応じて治療を継続します。当科では、初回薬物療法、コンバージョン手術、術後治療までを一連の治療戦略として考えています。薬物療法と外科手術を組み合わせることで、予後不良とされる肝胆道癌の治療成績向上を目指しています。
<先進的な研究に取り組んでいます>
さらに、こうした治療の効果を科学的に検証するため、コンバージョン手術の意義、薬物療法後の手術タイミング、術後補助化学療法の有用性などについて、多施設共同研究を進めています。これらの研究を通じて、より多くの患者さんに適切な治療を届けられるよう、治療成績の向上に努めています。
教育への取り組み—次世代を担う外科医の育成を目指して
関西医科大学 肝臓外科学講座では、肝胆道疾患領域における専門知識と外科技術を持つ人材の育成に力を注いでいます。当講座では、診療活動のみならず教育機関としての重要な使命を果たすべく、医学生から研修医、専攻医に至るまで、それぞれの習熟段階に応じた実践的かつきめ細やかな教育プログラムを構築・実践しています。
1. 医学生教育:基礎知識の定着、臨床的な解釈力の養成、実践的スキルの早期習得
医学生に対する教育プログラムでは、医師国家試験に準拠した内容を基盤としつつ、より臨床に即した実践的な能力の養成を重視しています。教育医長が中心となり、実際の肝胆道系疾患に関する医師国家試験の過去問を用いた詳細な解説指導を行っております。これにより、知識の定着に加え、臨床的な解釈力を養成します。すなわち、複雑な症例における問題読解力、画像診断力、そして根拠に基づいた診断・治療プロセスの構成能力を総合的に養います。
また、関西医科大学には非常に充実したシミュレーションセンターがあります。学内のシミュレーションセンターを活用した実践的なトレーニングにおいては、当講座ならではの特長として、実際の執刀医レベルの医師が直接、医学生への対面指導にあたっています。シミュレーション環境において、外科医から縫合や結紮といった実臨床で最も基礎的な外科手技の指導を直接受けることで、早期から外科的感覚とプロフェッショナリズムを肌で感じ、身につける機会を提供しています。
2. 研修医・専攻医教育:テーラーメイドの指導と「見える化」による各人の理想的なスキルアップ
実際の臨床現場に立つ研修医および専攻医に対しては、一人ひとりの現在の実臨床能力と習熟度に応じたテーラーメイドの指導を行っています。当講座の教育の大きな特徴は、習得すべき臨床処置や手術手技を段階的にフローチャート化している点です。
このシステムにより、研修医および専攻医自身の「現在のレベル」と「次に目指すべき目標レベル」を明確に「見える化」しています。自身の現在地と目標地点を常に把握できる透明性の高い教育メソッドを通じて、研修医および専攻医がモチベーションを高く保ちながら、着実かつ安全に高度な手術手技や周術期管理能力を習得できる万全のサポート体制を整えています。
研究業績
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