放射線科学
放射線科学講座の担当する診療科を附属病院では2010年4月から4つの診療科に細分しました。1つ目は単純X選写真、CTやMRIなどの読影診断業務を行う画像診断科、2つ目は画像診断技術を応用して低侵襲性治療を行う血管造影IVR科、3つ目は放射線同位元素を用いた機能的画像診断・アイソトープ治療を行う核医学診断科、最後にすべての種類のがんを対象に根治治療から緩和治療まで広い領域をカバーする放射線治療科です。この細分化よって、各領域の専門医が高度な医療に特化することが可能となり、先進医療の提供と臨床研究が可能になったと確信しています。附属第二・三病院ともいうべき総合医療センター、香里病院においては専門性を重視しながらも幅広い知識と技能を持った放射線科医集団をめざした診療を提供しています。いずれの病院においても、日常診療から生じる疑問点に対して「科学する心」を忘れることなく、エビデンスの確立を目的とした臨床研究も積極的に行っています。
4つの分野からなる放射線科最先端研究
放射線科学講座の担当する診療は画像診断、核医学、血管造影IVR、放射線治療の4つの領域に分かれています。そのそれぞれに専門家を配置し日常臨床から生じてくる疑問を解決すべくいろいろな研究を行っています。もちろん臨床研究にとどまらず、動物実験を含んだ基礎研究も同時に行っています。それぞれの分野に複数の研究テーマがあり、研究課題には事欠きません。さらにモレキュラーイメージング、ターゲッティングラジオセラピーなど最先端の分野の研究にも取り組んでいます。2014年12月からは動物専用SPECT-CT装置もイメージングセンターに設置され、小動物のRIならびにCT画像、さらには血管造影画像の作成も可能となり、研究の幅がより一層広くなりました。
現在の研究テーマ【画像診断科】
画像診断科では全科の画像を、診断に必要な画質の管理から診断に至るまでの責務を担っています。
前立腺癌のMRI診断
PI-RADSカテゴリーに基づく読影精度の向上のために、腫瘍を疑うMRI所見について拡散強調像、ADC値を中心に検討を行います。
肺腫瘍の画像解析によるCT診断
CTで抽出される肺結節の画像所見の視覚的評価および肺結節のCT値やサイズ計測等の客観的評価を行い、腫瘍マーカーや組織学的悪性度などの臨床所見との関連性を検討しています。また、画像解析ソフトウェアを用いた肺結節の悪性腫瘍・良性結節の鑑別方法を研究しています。
現在の研究テーマ【核医学科】
Molecular magingとRI therapyに関する研究
動物用SPECT/CTを用い生体内の代謝の評価・がん細胞のviabilityの検討・薬物動態の研究を行い、疾患の解明や薬物治療効果の評価系を確立します。次に、標的分子に高い親和性を有する物質を放射性核種で標識して生体内に投与し、SPECT/CT装置でのImagingのみならず、α線やβ線を用いた治療研究を行います。そしてこれらを臨床に展開し、RIを用いたCRT・より良い集学的治療を構築します。
Ⅰ. Cardiology Ⅱ. Neurology Ⅲ. Oncology
(1)Soft plaqueのImagingを構築し、Ischemic heart diseaseの予防・効果的な治療法を見出します。
(2)AβImagingを構築し、A βと認知症との関連を解明し、その治療法の確立を目指します。
soft plaque, A βのimagingを行い、X線 CT、病理所見と対比することにより最も優れたTracerを見出します。その後各種治療薬、治療法を試みImagingによる治療効果判定を行い、Imagingの有用性と最も効果的な治療法を臨床へ提案します。
(3)RI を用いた肝癌(転移を含む)の新しい治療法の開発を目指します。a) 動物用PECT/CTを用いリピオドール単独でのCTimaging、In-111標識リピオドールでのSPECT imaging,Tc-99m MAA( microsphere の代用)を用いたSPECT imagingを行い、その動態の違いについて検討します。b) 従来の治療法、Y-90 標識リピオドールでの全肝への治療、Y-90microsphereでの腫瘍への直接治療、Combinationtherapy 等を行い抗腫瘍効果並びに肝内転移の抑制効果に最も優れた治療法を見出します。また、α線放出核種であるAt-211の使用についても考慮します。
(4)RI 標識抗体を用い腫瘍のImagingと治療法の開発を目指します。
a)In-111やGa-67標識抗体を用い担癌マウスでのImagingを行います。その上で画像解析手法を用い腫瘍・各臓器等の吸収線量を測定し、臨床使用が可能なものを見出します。Ga-67標識 Her 2 抗体での実験結果を示します。
b)次にI-131,Y-90, Lu-177標識抗体や各種抗がん剤、放射線外照射を用いて単独あるいは併用療法を行います。また、各種投与方法(全身投与、局所投与、動脈投与等)での治療も行います。治療効果判定(抗腫瘍効果、転移抑制効果)は上記機器を用いたCT像、SPECTにて評価し、アジュバント療法も含め有効な治療法を確立します。また、一方で抗体の改変も推し進め、より腫瘍親和性の高いものを見出します。
現在の研究テーマ【血管造影IVR科】
放射線医学の基礎研究を患者さんのもとに届ける臨床研究まで
インターベンショナルラジオロジー(IVR)部門ではデバイスの開発とそれを用いたIVR手技の確立を目指します。発案したデバイスの知的財産権、医療承認を取得し、臨床での検証を行い患者さんのもとへ届けます。
(1)ナノマイクロバブルキャビテーションの利用
開発したデバイスでナノマイクロバブルを発生させIVRの手法を用いて体内に送り込み、局所でキャビテーションを生じさせこのエネルギーを利用します。X線造影用マイクロバブル造影剤製造装置(特許第5470630号)(Fig. A)をさらに臨床導入できる安価なディスポーザブルタイプの気体含有液生成装置(特願2160-125909)(Fig. B)に改良し、血栓溶解療法、局所における細胞膜透過性亢進の応用に取り組んでいます。
(2)画像ガイド下管腔臓器バイパス術
画像ガイド下管腔臓器バイパスデバイス術の研究では、開発した管腔臓器連通用キット(特許第5377151号)を用いてIVRの手法で管腔臓器をバイパス吻合します。現在、胸管と静脈を吻合する手法に取り組んでいます。
(3)CT用放射線防護シールド
CT透視の放射線防護に特化した放射線シールド装置(特許第5376367号)で増え続けるCTガイド下IVRの術者被ばくの軽減に成功し、医療承認(13B3X10111XA0028)を得て現在その効果を検証中です。
(4)耐性菌を生じさせない抗菌コートカテーテルの開発
蛋白付着を抑制するコーティングによりバイオフィルムの形成を阻止し、カテーテル関連感染症を予防します。殺菌作用がなく耐性菌を出現させません。
(5)新しいマイクロカテーテル
従来のカテーテル操作と異なりより確実に早く目的の部位に到達する新しいコンセプトのマイクロカテーテル医療用装置(特願2017-38884)とガイドワイヤー固定用操作部付き医療用接続具(意匠登録1589600号)の臨床導入に取り組んでいます。
現在の研究テーマ【放射線治療科】
高精度放射線治療を活用したがんの新規治療開発
がん治療分野において、強度変調放射線治療(IMRT)、定位放射線治療(SRT)、画像誘導放射線治療(IGRT)などの高精度放射線治療を積極的に活用し、脳腫瘍、頭頸部癌、肝胆膵癌、小児癌を中心とした全身のがんの新規治療開発を行っています。強度変調放射線治療は専用のコンピュータを用いて照射野の形状を変化させたビームを用いて、がんの形に合わせた放射線治療を行う新しい照射方法です。がんの部分に放射線を集中し、周囲の正常組織への照射を減らすことができるため、副作用を増やすことなく、より強い放射線をがんに照射することが可能です。
またJCOG (日本臨床腫瘍研究グループ) やPREP(膵癌術前治療研究会)、JCCG(日本小児がん研究グループ)など多施設臨床試験の研究事務局として、がん標準治療の確立を目指した研究活動を積極的に行っています。
研究業績