下部消化管外科学
下部消化管外科学講座は2024年4月に外科学講座より分離独立し、現在は原発性大腸がんを中心とした下部消化管悪性腫瘍の診療や研究を行っています。本講座は下部消化管悪性腫瘍の治療(腹腔鏡手術やロボット手術による手術治療など)および薬物療法を担当し、大腸がんの高水準な診療を実践しています。外来化学療法センターにおける薬物療法実施件数も附属病院内でトップレベルであり、がん拠点病院としての一翼を担っています。また、内科学第三、放射線科、病理診断科、緩和ケア科を中心に多くの診療科と連携し、がん患者のトータルケアを行っています。大腸がんはがん罹患率、死亡率ともに上位の悪性疾患であり、大腸がん患者は年々増加することが予想され、がん診療において当講座が担う役割はさらに大きくなると思われます。今後も当講座の持続的な診療・研究の推進が求められています。
現在の研究テーマ
1. 大腸がんにおける集学的治療法の確立、Precision Medicineの確立
現在、原発巣切除の後に術後補助化学療法を施行することが標準治療となっています。さらなる大腸癌治療における生存率の向上、QOLの向上を目指し、結腸癌、直腸癌に対する集学的治療の開発が進んでいます。近年では欧米において局所進行直腸癌に対する標準治療として放射線治療と化学療法をすべて術前に施行するtotal neoadjuvant treatment (TNT)の治療開発が進んでいる。またTNT後の再評価で臨床学的完全奏効(clinical complete response: cCR)が得られた症例では手術を行わずに経過観察するNon-operative management (NOM)が広まっており、2022年NCCNガイドラインにもTNT後のオプションとしてNOMの記載がなされている。本講座では、患者背景、MRIなどの画像診断、遺伝子情報などの情報をもとに、大腸癌治療の最適な個別化治療を探索します。
2. リンパ節郭清の精度向上を目指した手術治療の開発
結腸癌の手術において、特に肝弯曲部や脾弯曲部癌においては血管のvariationが存在するため、リンパ流は複雑です。いまだ十分に理解されているとは言い難く、郭清範囲の決定においては議論となるところです。さらに、腹腔鏡手術では開腹手術と異なり、腸間膜を広げて全体を俯瞰して観察することが困難であることも多く、肝弯曲部や脾弯曲部癌は難易度が高いと考えられています。近年、体外式や腹腔鏡での近赤外光観察装置の普及によりインドシアニングリーン(ICG)蛍光法が幅広く臨床応用されるようになってきました。結腸癌手術に対してもリンパ流評価として、我々は2016年からICG蛍光ガイド下のCMEの手術手技を報告してきました。本講座では、これらのリンパ流評価を用いて、郭清範囲を縮小するなどの最適なリンパ節郭清範囲を探索します。
3. 術後合併症低減を目指した手術治療の開発
大腸がん術後における問題点として術後合併症の発生があります。主な短期術後合併症として縫合不全、腸閉塞、Surgical site infection、晩期合併症として腹壁瘢痕ヘルニアなどが挙げられます。我々は、2015年から近赤外光観察による血流評価によって縫合不全の発生を減少させることを報告してきました。これらの術後合併症発生率を低減し、術後短期成績を改善させる手術治療の開発を行います。
4. がん先進部における浸潤突起の形成とがん間質反応との関係性、さらに転移・浸潤形態の解明
⼤腸癌は罹患率・死亡率ともに⾼く、大腸癌の予後層別化は適切な治療選択に直結する解明すべき重要課題です。大腸癌関連死の主な原因であるがんの転移は、がん細胞の浸潤能によって引き起こされます。この浸潤能は、腫瘍微⼩環境(TME)において、細胞外マトリックス(ECM)の分解に関与する Invadopodia (アクチンに富む浸潤突起)の形成が重要であることが報告され注⽬されています。また、TME における間質反応としてDesmoplastic Reaction(DR)とは、豊富な ECM 成分、特にコラーゲン、線維芽細胞、その他の間質細胞の沈着を特徴とする間質反応のことであり、間質成分の成熟度によって 3 つのタイプ(Mature/ Intermediate/ Immature)に分類することができ、その中でも Immature 型(IM)は、粘液状の間質が豊富に存在することが特徴であり、既に DR-IMは、予後不良・再発因⼦として報告されています。我々は⾃施設データベースにおいて DR- IM を複合したノモグラムを作成し、既存の病期分類と⽐べ、より優れた予後の層別化を報告してきました。当講座では、浸潤突起の形成が ECM 蛋⽩分解酵素とがん細胞の成⻑因⼦蛋⽩質の産⽣に関連し、DR-IM の予後不良の原因究明に繋がる仮説から、1) DR-IM と浸潤突起関連蛋⽩、蛋⽩分解酵素などの発現との相関、2) IM と成⻑因⼦タンパク質との相関、3) IM と癌関連線維芽細胞および腫瘍関連マクロファージとの相関などを解析します。
5. 手術シミュレーション方法の開発
関西医科大学には医科大学でもトップクラスの345㎡という広い空間に、100種類以上の機器を保有するシミュレーションセンターがあります。腹腔鏡手術などの高度な技術を必要とする手術のトレーニングを行うとともに、より効果的なシミュレーション・トレーニング方法の開発も行っています。また、医学生に実際に近い手術手技を体験してもらうことで、スーパードクターと呼ばれるような外科医を目指す医学生が増えることも期待しています。
研究業績